ニュースの視点

TBS ニュースバード ニュースの視点 2016年1月13日(水)15:02~15:50 『元国連職員が語る“情報”』 番組制作・台本: 鶴岡正典 キャスター: 櫻木瑶子 ゲスト: 九島伸一 はじめに ゲストの経歴 本のこと インテリジェンス 国連での情報 コフィ・アナンの国連改革 コフィ・アナンはどんな人? 情報量の増大 どのくらい増えたか? 感じたこと・提言 プロパガンダに踊らされないために プロパガンダの例 プロパガンダの実際 どうすればいいのか 言葉で視野は広がるか 情報リテラシー教育 意識の共有 世界と日本の“情報戦略” なぜ日本人は情報を重視しないのか? 日本の情報に関する政策について 情報で競争していく基盤 システムはまだ出来ていない 世界での情報の現状 情報戦争 アメリカと中国の競争 情報兵器 コンテンツの戦い SNS を利用した戦争 宣伝力 どう対抗するか まとめ おわりに   はじめに ニュースの視点です。日々氾濫する情報の洪水。私たちはその膨大な数の情報を、どう取捨選択していくべきなのか。また、権力者や特定の組織の思惑に「惑わされず」「だまされず」「利用されないために」、一人ひとりが、どう「情報リテラシー」を身につけていくべきなのでしょうか。 きょうのニュースの視点は、情報社会を生き抜くための知恵とその方策を考えます。 スタジオには「情報」のエキスパートとして国連で30年に渡って活躍してこられた九島伸一さんにお越しいただきました。九島さんよろしくお願いします。 こちらこそ、よろしくお願いします。   ゲストの経歴 1982年~国連欧州経済委で経済社会データの出版 1998年~世界保健機関で健康・公衆衛生の情報管理 2000年~国連人権高等弁務官事務所で人権情報の管理 2001年~国連本部で図書館などの情報管理と知識管理 まずはあらためて九島さんの経歴をご紹介します。 九島さんは1952年生まれの63歳。早稲田大学理工学部物理学科を卒業された後、三井造船勤務を経て、ケース・ウェスタン・リザーブ大学大学院工学部情報科学科を卒業。 その後、IBMで情報システムのエンジニアとして勤務後、1982年から2012年までの30年間、国連において、欧州経済委員会での経済社会データの出版を皮切りに、世界保健機関では健康や公衆衛生の情報の管理を、国連人権高等弁務官事務所では人権情報の管理を、そして国連本部では情報管理のクラスター長・図書館長などを歴任され、国連の情報管理・知識管理を推進されてきました。 そして、先月にはこれまでの経験をまとめられた こちらの「情報」が幻冬舎より出版されています。   本のこと 非常にシンプルなタイトルですが、今回なぜ「情報」をテーマに本を出されたのですか? 国連を退職して、30数年ぶりに日本で暮らしてみて、まわりの人たちのナイーブさに改めて驚かされたんです。情報に影響されやすい、言葉を換えれば「騙されやすい」ということなんですが、「オレオレ詐欺」とか「健康食品のこと」とか、それ以外のことでも、なぜこんなに簡単に騙されるのだろう。なんで疑わないのだろう。そう思ったんです。私が日本から離れて暮らしているあいだに、みんなのなかから「逞しさ」や「したたかさ」が消えてしまった、そしてなにより「情報に関心がない」「情報に対して無防備だ」ということがとても気になりました。書店に行って情報の本を探してみても情報技術の本ばかり。情報の洪水の中で、だれも情報のことを真剣に考えていないように見えまして。 私自身も、ずっと情報を仕事をしてきたのに、情報のことを何も知らない。大きなことは言えませんね。それでいろいろ考えて、で、考えるのには書くのが一番ですから、いろいろ書いて、で、そこから突然飛躍するんですけれど、出版したいって、そう思ってしまって。それから、幻冬舎の編集者の方に大変お世話になりまして、で、読んだ人に、少しでも情報のことを考えてほしい、情報を選び取る能力を身につけてほしいと、そういう願いを込めて出版しました。 おっしゃるとおり、「情報」というタイトルはとてもシンプルなんですが、それ以外には考えつきませんでした。タイトルだけでなく、装丁もシンプルで、とても気に入っています。   インテリジェンス インテリジェンスという言葉も最近よく耳にしますよね? はい、でもインテリジェンスという言葉は、国家のレベルで使いますと、20世紀の言葉というか、冷戦時代の言葉というか、なんだか古びた感じがします。それにインテリジェンスという言葉には、「国家はこんなに大変なんだよ」「みんなで国家のことを心配しましょうよ」みたいな、刷り込みのような役割があると思うんです。ですから私は仕事でもプライベートでもインテリジェンスという言葉は使いません。 九島さんはどんな言葉を使っているのですか? データ:意味のない事象。ビット、数字、文字などで表される。 情報 :集められ、整理されたデータ。伝えられ、利用される。 知識 :消化され理解された情報。集団で共有される。 知恵 :広く受け入れられた知識。人類で共有される。 私が使うのはインテリジェンスではなく、データ、情報、知識、知恵というような言葉です。 データはビット、数字、文字といった意味ののないもの。 情報は集められ、整理されたデータで伝えられ、利用される。 知識は、消化され理解された情報で、集団で共有されるものとそうでないものがある。 知恵は広く受け入れられた知識で、人類で共有されるものとそうでないものがある。 そんな感じです。日本では、いろいろな理由があって、これらの言葉が実に曖昧に使われていますが、もっとちゃんと使ったほうがいいと思っています。   国連での情報 九島さんが在籍された国連でも膨大な「データ」をどう整理し、伝え、利用していくかが、組織を円滑に動かしていく重要な要素だったということですか? はい、そうなんです。国連と一口に言いましても、いろいろな活動がありまして、それぞれに違う情報そして知識が必要になります。私はいつも、4つのカテゴリーに分けて考えています。 1つめは緊急援助ですね。 災害とか紛争とかで、困った人を助けなければいけません。国連では「人道的」という言葉を使いますが、例えば被害に遭った人に食べ物を運ばなければならない。そこで必要になる情報はとても重要です。必要な場所に必要なものを必要な時に必要な人のために届ける。そういうことをしようと思えばスピーディーで正確な情報管理が欠かせません。 2つめは、サステイナブルなオペレーション。 継続的なことですね。国連では「開発」という言葉を使います。食べ物を送っても食べてしまえば終わり。また送らなければなりません。で、食べ物を送る代わりに、種を送り、自分たちで農業ができるように持っていく。そういう場合に必要な情報は、緊急援助の情報とはまったく違うものです。 3つめは、人に寄り添う仕事です。 人権を侵害されていたり、難民として住む場所を失った人に寄り添う仕事。そこでの情報は、人間の情報ですから、その扱いはとても気を付けなければいけなくて、難しいんです。人に関する仕事には、おのずと蓄積された知識が必要となります。その知識をどうやったら共有できるのか。それも、簡単ではありません。 4つめは、全体を見る仕事。 統計を出したり、お金の分配を決めたり、会議とか、国連文書とか、そういうことでの情報は、いろいろな思惑が交錯して、とても複雑です。会議とか交渉とか調査とかには、知識が必要ですが、そういうことをしている人は、誰も知識を共有したがりませんし、情報も全部を出してくるわけではないので、大変です。 今言いました4種類のまったく違った情報を扱いって、結構大変で。それぞれ違う情報を、どう入手し、どう処理し、どう発信し、どう届けるか。国連の情報管理は、簡単ではありません。   コフィ・アナンの国連改革 九島さんが在籍していた時代には、アナン事務総長が世界平和や人権などの課題に取り組み、大きな功績を残されましたが、こうした裏には 九島さんをはじめとしたスタッフの支えも欠かせないものだったということですね? INS:アナン事務総長+SP はい。コフィ・アナンという人は、他の歴代の国連事務総長と違って、ずっと国連の職員だった人なんです。コフィ・アナンの前に事務総長だったブトロス・ガリは長いあいだ学者だったし、コフィ・アナンの次に事務総長になったバン・キ・ムーンはずっと外交官だったし。。。国連の職員から事務総長になった人は、今までひとりしかいないんです。コフィ・アナンはは国連の職員だったので、国連の内部のことを良く知っていましたから、国連改革にはうってつけの人物だったのだと思います。 あの、ここに28年前に撮った一枚の写真があるんですけれど。。。 当時の事務総長だったペレス・デ・クエイアと、当時は国連の内部にいたコフィ・アナンと私とが一緒に写真に収まっているんです。だからなんなんだという話ですが、まあ。。。 で、この頃、コフィ・アナンが事務総長になると考えた人は、多分一人もいなかったと思います。「私たちの支えが」というご質問でしたが、コフィ・アナンには、どうすれば私たち国連職員の力を最大限に発揮させられるかということが、よく分かっていたのだと思います。それでいろいろなことがうまくいったということは、ありますね。   コフィ・アナンはどんな人? ちなみにアナン事務総長は、実際に接してみてどんな方でしたか? コフィ・アナンが事務総長だった頃に、ジュネーブに来て話をするというと、みんな仕事を中断してでも集まってくる。そんな感じでした。職員のあいだではすごく人気がありました。コフィ・アナンが若かったころ、WHOで経理・財務にいて、HCRでは人事にいて、昇進が遅かったということもあって、みんな親近感を抱いていましたね。こちらの苦労をわかってくれる。そんな印象を持ちました。 どんな人かというと、なんて言うんでしょうか、話をよく聞いてくれるとう、そんな人でした。目を大きく開いて、こちらをじっと見て、で、こちらは「こんなに真面目に話を聞いてくれる人ははじめてだ」と思うんです。不思議な人ですね。   情報量の増大 話を情報に戻しますが、個人レベルで考えても、インターネットの普及で、私たちが受け取る情報量は飛躍的に増えましたよね? はい。街を歩いていても、情報が溢れだしている感じがありますよね。家にいても、インターネットのおかげで、たくさんの情報にアクセスすることができます。それは、悪いことじゃないですよね。情報が溢れていること自体は、困ったことではない。 … Continue reading ニュースの視点